大判例

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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)206号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本件発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 取消事由の有無についての判断

1 前記争いのない本件発明の要旨に、成立に争いのない甲第二号証(特公昭五八―四八一八六号特許公報・本件公報)を総合すると、本件発明は、「主として人体の肩こり、肩痛、腰痛症の軽減ないし治療等を図るため、ゲルマニウム片を人体の皮膚の経穴経路、痛み等の部位に当接して用いる、特に、鎮痛と消炎効果に有効な皮接具に関する」(本件公報一欄二四行ないし二八行)ものであり、発明の詳細な説明の欄には、無機ゲルマニウムの固形片を人体の経穴経絡あるいは痛み等の部位に絆創こうなどの可撓柔軟性素材からなる接着片である皮接体によつて当接して用いるものであること及びこれを用いることによる作用効果としては、特に「鎮痛と消炎効果が顕著であることが臨床実験の結果得られた。」(同二欄一五行ないし一六行)との記載のあることが認められる。

2 無効事由2についての判断

当事者間に争いのない審決摘示に係る第二引用例(昭和五〇年一〇月一日株式会社サンロード発行に係る「新栄養」一〇月号通巻七四号の一部)の記載と成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、鎮痛用皮接治療具として、ゲルマニウム二〇〇ミリグラムとN型ブルー半導体をくつつけ、更にRという物質が加工されたものを入れた金属製ロケツト(サンプラ製)が記載されていることが認められるところ、本件発明に係る鎮痛用皮接治療具は「ゲルマニウムからなる固形片」であり、両者の皮接治療具としての構成は明らかに異なつている。また、前掲甲第四号証によるも、第二引用例には、原告の主張する上位概念としての技術的思想なるものを見出すことができないし、ゲルマニウムを金属製カプセルを介することなく「直接人体に皮接する」技術的思想も見出すことができない。そうすると、原告の第二引用例についての主張は正確な理解に基づかないものといわざるを得ず、また、これを前提とした作用効果についての主張も採用できない。

したがつて、審決が、本件発明においてはゲルマニウムの固形片を直接人体に皮接するのに対して、第二引用例の発明においてはゲルマニウムと他の物質からなるものを金属ロケツト中に装填して用いるものである点で相違するとした趣旨の判断は正当である。前記のとおり、本件発明の「ゲルマニウムからなる固形片」に対応する第二引用例の発明における構成は、「ゲルマニウムと他の物質が含まれた金属ロケツト」であり、そこで用いられる素材もゲルマニウム単体ではないのであるから、ゲルマニウムを金属ロケツトを介して人体に皮接するか、あるいは絆創こうなどで直接人体に皮接するかは、第二引用例の発明における「皮接するための手段」を単なる慣用手段の範囲内で変更したにすぎないものとする原告の主張も理由がないことは明らかである。無効事由2についての原告の主張はいずれも採用の限りでない。

3 無効事由3についての判断

(一) 第三引用例ないし第九引用例に審決認定のとおりの記載のあること及び第七引用例に原告の指摘する「肩こりに効いたので人のためになると思つて売つた。」との記載があることは当事者間に争いがない。

(二) 成立に争いのない甲第八号証(昭和五一年六月一日玄同社発行に係る刊行物「ゲルマニウムと私」の一部)によれば、第六引用例には、有機ゲルマニウムを使用した臨床例が紹介されているが、いずれも、有機ゲルマニウム水溶液の患部への塗布、有機ゲルマニウム化合物を含有した軟膏の患部への塗布、ゲルマニウム化合物の水溶液の服飲による治療効果が記載されているにすぎないことが明らかである。したがつて、第六引用例に開示されたところは、素材としても本件発明における「ゲルマニウムからなる固形片」とは異なる有機ゲルマニウムを用い、しかもその使用態様も本件発明とは異なるのであるから、原告の主張するように、第六引用例には「ゲルマニウムを直接皮膚表面上に当接せしめて外用として用いること」が開示されているとみることはできない。第六引用例の記載を原告が右に主張するように広い技術的思想の開示とみることは到底できないから、第六引用例に関する原告の認識ないし理解は誤りといわざるを得ない。

(三) 成立に争いのない甲第九号証(昭和五一年四月九日付毎日新聞に一部)によれば、第七引用例は「ゲルマニウム二五〇ミリグラムを入れたペンダントを製造させ、これをムチ打ち症状や高血圧症、胃腸病など万病に効く」というふれ込みで販売した者が薬事法及び医師法違反で書類送検されたことについての新聞記事であり、被疑者の弁解としたこととして、原告主張のような「肩こりに効いたので人のためになると思つて売つた。」との記載があることが認められる。しかしながら、第七引用例は、右のような記事の性質内容に徴しても、そこに記載された技術的事項は信頼をおかれて理解され得る性質のことではないし、第七引用例を通常の技術文献としてみることは到底できない。しかも、右の新聞記事によつても、「万病に効く」とされたのは、「ゲルマニウム二五〇ミリグラムを入れたペンダント」であり、そこには、ゲルマニウムからなる固形片を直接人体に皮接する技術は何ら開示されてはいない。この点、原告は、第七引用例のもののようにゲルマニウムをペンダントに装填するか、本件発明のようにゲルマニウムの固形片を直接人体の患部に皮接するかは、当業者が容易に想起する単なる慣用手段の転換にすぎないものである旨主張するが、第七引用例には、そのように理解すべき記載も示唆もないのであるから、原告の右の主張は根拠を欠くものであつて採用の限りでない。

(四) 第六引用例及び第七引用例の記載内容が右のようなものであり、「ゲルマニウムからなる固形片を直接人体に皮接する技術」が開示されているものではないとすると、たとい、本件発明の「固形片上に設けられた皮接体」に相当する絆創こうなどの接着テープが第五引用例に記載されているごとく本件特許出願前に公知であつたとしても、本件発明の構成のごとく「ゲルマニウムからなり固形片」と「固形片上に設けられた皮接体」とを組み合わせることが当業者にとつて容易なことと認めることはできないし、本件発明の効果を予測することはできないものというべきである。

(五) 右のとおりであるから、第六引用例及び第七引用例の記載内容についての原告の主張は採用することはできず、本件発明が第五引用例ないし第七引用例から容易に推考し得たとする無効事由3についての原告の主張も失当である。

4 成立に争いのない甲第三号証(特開昭五四―三六〇八八号公開特許公報)及び公第一二号証の一ないし六によつても、本件特許について無効事由1及び無効事由4があるものとは認められない。したがつて、結局、審決の無効事由1ないし4についての判断は正当であつて、審決にはこれを取り消すべき違法の点はない。

三 以上のとおりであるから、認定判断を誤つた違法があるとして審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとする。

〔編注1〕本件発明の要旨は左のとおりである。

ゲルマニウムからなる固形片と、該固形片上に設けられた皮接体とからなることを特徴とする人体の経穴経路あるいは痛み等の部位に皮接して用いる皮接具

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